大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)1901号 判決 1956年4月17日

本籍並びに住居

愛媛県北宇和郡岩松町七二五番地

元町長

居村富士助

明治一三年一二月一八日生

本籍

同県同郡同町七五〇番地

住居

同県同郡同町七二五番地

無職

黒田円太郎

明治二七年六月二二日生

右の者等に対する各詐欺被告事件について昭和二六年一一月三〇日高松高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人居村富士助の上告趣意について。

論旨は、被告人の所為が実行の時に適法であつたということを前提としてこれに刑罰を科した原判決は憲法三九条に違反すると主張する。しかし原判決は被告人の所為は実行の時に違法であつたとしてこれを処罰しているのであるから、所論はその前提を欠き採用することができない。

その余の論旨は単なる法令違反、事実誤認または量刑不当の主張に帰し適法な上告理由とならない。(論旨は、町長である被告人居村の地位はいわゆる執行機関であつて、意思機関たる町議会の議決を執行したまでのことであるから詐欺の犯意はなかつたということ、また本件授産場はその経営を被告人黒田に委託したとはいえ終始町営であつたことに変りはなかつたこと、従つて詐欺の事実はなかつたということを主張する。しかし第一審判決挙示の各証拠、なかんずく被告人黒田円太郎の検察官に対する第一回及び第三回供述調書、被告人居村富士助の検察官に対する第一回供述調書並に第一審における証人池田清次郎の証言等を調べてみると、原判決が説明しているように、本件詐欺の事実を認定することができる。すなわちなるほど表面上形式的には右の授産場は町営の下に設置経営せられているように見えるけれどもその実質はあくまで被告人黒田の個人経営の範囲を出でないものであることが認められる。また右授産場の設置経営について町議会の議決を経たことは所論のとおりであるが、それは該授産場の経営が公共事業である性質上個人には認可されず、表面町営であるということにすれば認可になることから、町長の地位にある被告人居村の操作によつてかかる処置が採られたまでのことであつて、本件被害者に対する関係においては、被告人両名が被告人黒田の個人経営に帰する事情を秘し、恰も町で設置経営するように装つて作為した結果、そのことを知らない当該係官は町で設置経営するものとのみ信じて本件補助金を下附したものであるという事実が認められる。従つて詐欺罪の構成要件は充たされているのであつて、被告人はその刑責を免れることはできない。)

被告人黒田円太郎の弁護人松川孟一の上告趣意について。

論旨は、原審の見解と相容れない証拠に対する解釈に基いて、原判決の事実誤認を主張するものであつて、刑訴四〇五条に定める適法な上告理由にあたらない。(原判決の事実認定に対する所論の非難があたらないことは、被告人居村富士助の上告趣意について説明したところによつて明らかである。)

なお記録を調べてみても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よつて同四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

検察官 吉河光貞出席

(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例